それでも仕事はある程度裏切らない

言いたい事は客に言うが、やりたくないことはリクエストされても「それは勘弁」ときっぱり拒絶するが、それでもおそろしいことに過半数の客はオレを「優しい」と言う。
そう言われるなら、まぁそうなのかも知れない。


とりあえず、された事が痛ければ痛いというし(むやみやたらには言わないよ)、生々しい裏方の話も客の前であっけらかんとする。ピルがどうとか出血がどうとかSTDがどうとか。
だけどそのぶん、オレは割と仕事をしているらしい。
んでまぁ、稼ぎが在籍店舗で真ん中あたりをたゆたってるんだから、ここまでやりたい放題やってる割には恵まれてるのかな、いややっぱり仕事はしてるからな、とふと思ったりする。


まぁ、逆に言えば仕事きっちりしても態度がこうだと、このへんが限界って話でもあるんだけど。体力的にはこれ以上忙しくなってももたないだろうし、ここいらへんが折り合いってやつか。

オレは現在ノースキン接客ですが

コンドームを使ってくれという客は褒めちぎりますよ。とりあえず。


ところで、オレは笑ったけど多くの男性は恐怖するかも知れない話をひとつ。
オーストラリアでの研究によると(Journal of Infectious
Diseases誌2006年2月1日号)、男性にとっては多分もっともありふれたSTDであろう「非淋菌性尿道炎」、これって手にもそこいらへんにもよくいるような細菌、いわゆる雑菌によってなるもんだとオレもかつては思っていたんだけど、さにあらず。
淋菌によらない尿道炎ならなんでもかんでも「非淋菌性」なのねん。


あくまで、オーストラリアのデータではあるけど、「急性非淋菌性尿道炎の30〜50%がクラミジア、10〜30%がマイコプラズマによると報告されている」と文献にはあり。
「マイコって、マイコって、オーラルセックスで喉からちんちんにクラミジアが、あるいはちんちんから喉にっていうのはよく聞くけど、マイコプラズマが!」と不謹慎にもツボに入ってしまいましたよオレ。そして、オレもマイコプラズマにかかったまま仕事してた事があるのを懺悔します。が、そういう時にオレの頭を無理矢理抱えてイラマチオさせた客には懺悔しません。うえっとか言ってるのに怒ってるのによく一瞬でもやらせるよな。


さておき、「非淋菌性尿道炎」に罹った男性から出て来たその他の菌・ウイルスを挙げてみる。アデノウイルスプール熱の原因菌のひとつ。抗生物質効きません)、ガードネレラ(男性は感染してもたいてい無症状。女性に膣炎症状が出る)、単純ヘルペスウイルス1、2型、なんかがあったそうで。
そう、人間はウイルスとともに生きている。ウイルスを保菌して生きている。ウイルスの運び屋として生きている。ここんところは、どれだけ他人と性的接触の機会がない人間でも無垢たりえない。


そして、吉原を例にとればいくらちゃんとしているとは言え、STDらしいSTDしか検査するわけがないんだから、項目は「HIV、梅毒、淋菌、クラミジア、トリコモナス、性器ヘルペス、コンジローム」くらいで、その他の雑菌・ウイルスの検査もざっとはするんだけど、項目の外にあるものがいくらうじゃっといても検査表には出て来ない。仕事できちゃう。店も女子が「雑菌多いって言われちゃいました」と訴えたところで、雑菌の怖さなんか知らないからノースキンで仕事させちゃう。
くわばらくわばら。(ただし、膣剤などで治療できるものはもちろんします。自覚がなくても何かに感染していれば炎症があるし、その炎症が次の感染を呼ぶからね。自分のためっすよ)


で、お客の皆さんはオレ達のように毎月毎月スクリーニングなんか受けてないんだから、もっと無自覚にいっぱい飼ってる、運んでる。いつか症状が顕在化するものに罹って治療を受けるまで、まぁバラまき続けている事であろう。
ノースキンで遊んだ女子の数が多ければ多いほど、症状はなくとも飼ってる細菌やウイルスの種類はバラエティに富んでると見てよろしかろう。にんげんだもの(苦笑)


こういう話は、ノースキンの客には特に嫌がられるんだけど、スキンノースキン問わずよく客達にする。
ほほほ、そりゃあいくら仕事ができたって頑張ったって、こんな「風俗怪談話」しかも洒落にならないのをするソープ嬢のところにはなかなかリピーターはつかなくってよ、ほほほほほ。毎月固定客の顔を見るたび「君等ってキワモノ好きねぇ」と思っていてよ。
男性の皆さん、聞きたくないでしょうともそんな話、だけどええ、あたくしそういう洒落にならないものに日々身を晒しておりますのよ、ほほほほほ。
ま、スキン接客希望の客は皆さん少なからず持ってる「ノースキンの誘惑」が断ち切られるみたいで。それはいいことですよ、うん。

リスキーなのは事実

時折スキン接客希望のお客に言われるのが、ノースキン接客可能な女子にコンドームを使ってくれというと、機嫌を悪くされた、怒られた、ということ。
…あー、まぁ、あるでしょうねえ。もしかするとその時コンドーム在庫がなくて誤魔化したのかも、なんて冗談にまぎれさせてはおくものの、考えてしまう話ではある。


恋愛の場面でも、いやそういう場面でこそ、特にこちらがピルを服用していたりすると、コンドームを使わない事がこちらへの信頼やら愛情の証だと思っている男性がいたりするのだが。
それはやっぱり、おかしい。
「チミ等、なんでひとむかし前の『性病』がSTDと呼ばれるに至ったかわかっとらんだろ。性病らしい性病ではないが性接触により感染するものは無数にあるんだぜおい。コンドームでは防げないものもあるにしたって、そこいらへんの認識がちゃんとしていたら信用だの信頼だの愛なんつう言葉はこの場面には出て来ないんだが、どうなのよそれ」と腹の中で思う事多分100回超。それに比べたら、これを耐えかねて口にした回数なんか可愛いもんで。


そしていよいよ、世間の認識だけは変わらないまま、STD(Sexually transmitted disease )はSTI(Sexually transmitted infection)って呼称に移行しつつあるという。その意味するところ、考えてみようね頼むから。
善人の上やチミが愛している人の上だけは病気が通り過ぎて行くなら、オレは本当に誰からも愛されてない人間だと思わないかね(苦笑)
オレが最も信頼していた人間は、若くしてエイズ死してるの皆さんにお話ししたのにね。それでもまだ「信頼」って言うか?(「愛だ信頼だは病気をなんら防げない」とオレがとても怒るのは、「息子のとーちゃん」である彼との経緯のせいもある。っていうか、これがとても影響している)


感染については、確立を論じてもしょうがないところでもある。確かにHIVはそんなに感染力が高くないウイルスで、かつてHIVポジティヴのパートナーがいたオレは完全コンドーム使用、オーラルセックスの際もあちらはコンドーム装着、こちらににはデンタルダム(薄いゴム皮膜)をかぶせて細心の注意を払っていたしていたから当然と言えば当然なのだが、感染はしなかった。*1


とにかく、結果としては感染するかしないかの2つにひとつなんだが、お前等感染したときの影響とかあとしまつのこととか、そっち全然見ないよなと、オレはずっと腹を立てていた。
オレ1人だけではコントロールしようがないところまでオレだけでコントロールしろと言われているようで、いや実際彼らが言ってるのはそういうことで、オレはいつも腹を立てていたのだ。この怒りが恋愛している状況に混ざると、もうしんどい事この上ない。これ、孤独にされてる事への怒りでもあるしね。


仕事では、そのへん葛藤が少ないかまったくないのはまだいい。
客に「怖くないの?」と訊かれれば、オレはそこんところ誤魔化せないから「何度かクラミジアも淋菌も罹ったし、雑菌感染はしょっちゅうあるし、怖いですよ。でもこれやらないとフォトジェニックな子でさえなかなか選ばれないし、店も『お客を大事にしていない』って責めるし、何より、食べて行けませんから」ときっぱり言う。商売の上では嘘がつけた方がずっとお得だが、ここはもう耐えられないのではっきり言う。
スキン接客の女子でも、しばしば常連客にはこっそりノースキンのサービスをする事があるらしいが、それも店は把握しても黙っている。なんせそれこそが店の意にかなう事なので。


皆「自分だけは大丈夫」と思っているらしい。そして、売春のあり方は現状、客のそういう都合のいい願いに「そうそう。大丈夫大丈夫」とお追従をする。
そんなわけないに決まってんじゃーん、と現場で言ってしまうのは、まぁ営業戦略上、バカのやる事だ。が、もはや耐え難いし、実際オレはリスクに晒されていて、オレとなんのバリアもなく接触を持つ客達もまたリスクに晒されているのだ。
ここんところをしっかり認識していただかないと、コンドームを使うか使わないかは検討すらされない。
しかしこれ、現場でやったって賽の河原の鬼の前で石を積んでるような作業だ。

*1:しかし、そうやって唾と汗を除く体液はバリアをしていたのに、息子はできてしまったのであった。すごいな生命

風俗嬢は社会保険と厚生年金を欲しがるか

情けないが、結構「だらしない人の群れ」っぽいかもなーと思う、周囲の「携帯止まったー。止まってるー」コールであることよ。


もっとも、オレも携帯電話を止めてしまった経験がかつて、ある。
各種公共料金が引き落としに間に合わなくて、もう一度ほとんどの公共料金の引き落とし手続きをやり直した事もある。
でも結局また引き落としにしちゃうあたりが、オレがまともにもなりきれないけど駄目にもなりきれないゆえんなのか。


持続可能な性産業を考える、ってやつなんだけど、全部が全部ではないにしても、そこは切羽詰まっている女子がどかっと集まりがちなところ、という前提が外せない。オレもここんところかろうじて収支とんとんなものの、背水の陣と言えばそうで、いいのかP-FUNKなんか聴いてる場合かー。
ともあれ、働きに出て客につかない限り金の補給がない、っていうこの業界のあたりまえは、給与生活している皆さんの当たり前とはすごく違うんだよな。
オレはサラリーマンの妻をやってた事があるけど、配偶者が会社に行けなくなって月に9万の傷病手当しか支給されなくても、それでも毎月なんらかの金を支給してくれる会社ってすごい、と思ったもので。


いろんなことを考えたけど、この業界のひとつの問題としてあるのが、特に業界の隆盛を担っているはずの若い女子の場合、「ここには長居しない」って思ってるっていうのが、あるよなぁ。
いや、そうできるならそれでいいんだけどね。なかなか、そうならないんだよね。でも、皆そう思ってるんだよねぇ20代が終わる頃あたりまでは確実に。
その「長居しない」って思ってるところが、働き方にも出るわけで。それがまた本人の足を引っ張ってしまったりするのはなんとも。

いろんな理由で背景で経済的に切羽詰まった時、風俗勤めって確かに自助の一手段足り得るんだけど、現実はなかなか自助にならない。
ものすごく一過性の状況で「金が足りない」っていう場合はいいんだけど、構造的にヘルプレス、シェルターレスなところにいる女子の場合は、豊かにもなれず抜けられもせずってやつになっちゃうんだよなぁ。ええこれ他人事じゃないですよオレ自身の話でもありますよ(苦笑)


とにもかくにも、真面目に出勤して客に会わなければ金が来ない。そういう状況で、どこまで計画経済は可能であろうか。
たしかに、計画経済なしとなると、公共料金を引き落としにする事すら難しいんだよね。数ヶ月単位の家賃滞納もザラに聞く話である。いやその前に住所不定状態ってのも珍しくなかったようちの業界…。
そんな状態で厚生年金の掛け金と健康保険料しかも社保、払えますか。って考えると、ああみんな逃げ出すよねぇ、そんなこと言わない地下に潜るよねぇ、となってしまったのだった。
現状、住民税フリーになるのに確定申告だってみんなやりたがってない(店を通じて希望者は出来るのです)のに。


より稼げる条件を求めてめまぐるしく移籍して、しばしば業種もしょっちゅう越境するような女子、出勤日も少ないし店にいる時間も少ない、そして当然稼ぎも「ファミレスで毎日朝から晩まで稼いでいるよりはちょっとまし」くらいの女子にはどう対応するか。パート扱いか。いや、どんなに店にいる時間が長くてもこういう稼ぎになっちゃう女子もいる。
あれこれ考えるに、風俗嬢の皆さんも健康保険と厚生年金に加入できますよと言っても、実質はかなりの数の女子がそこから切り捨てられるだろうし、その前にアングラ売春へ逃げ出しちゃうのが見える。
労災をどう規定するとか真剣に考えれば考えるほど、後頭部から煙が出て来る。ああ、いかん。