某店舗様という心の支え

吉原の、うちの店からはさいはてのあたりに、そのお店はある。
随分昔、わたくしはその店の前を通り過ぎて通勤していたこともある。ありゃもう何年前だったか。
わたくしの吉原2軒目の店はもはや店名も変わり、おそらく経営者も変わって別物になっているが、何度もその前を通ったそのお店は、十数年が経過した今もそこにある。


某店舗フロント様、とにかく新メニュー、ことに野菜系サラダ系のものを登場させると、とにかく真っ先に注文して下さる。
ポテトサラダがまったく動かなかった時期も、今やタコライスを凌駕しそうなコブサラダが初登場から一週間以上てんで動かなかったときも、わたくしは彼等からのオーダーがあるかもしれないからとそれらを用意し続けた。
ちなみに先方様のオーダー、仕込み・在庫の脆弱性をピンポイントで突いてくるのがたいへんお上手で、つい仕込みがめんどくさいしあんまり動かないから開店してからやりゃいいよ、なんて具合にだらけていると、たいへんなご迷惑をおかけしてしまうことになる。これはとことんわたくしが悪い。…その節は本当にご迷惑を。


そう、コブサラダ、登場からしばらく、本当に動かなかったのである。
食べごろになってしまったアボカドが余って余ってしょうがないもんだから、その時はうちじゃ毎日ワカモレ、毎日アボカド乗せタコライス、あげく仕込み処理として悲しみの自宅コブサラダ。泣けた。
そんな時でも、某店フロント様は淡々と、コンスタントにコブサラダを注文して下さった。あれで、たった1軒でも気に入って食べて下さる方がいるということで、めげずに作り続ける事ができた。


コブサラダが人気者になってしまってから、問題が生じた。
仕込み数を(もったいないお化けが恐ろしくて)どうしても小口にしてしまうわたくしとしては快挙と言えるくらい、どかっと増やしたのだが。しかし、しかし時々、いやしばしば、「最終お届けでいいからコブサラダ持ってきて」とご注文下さる、最初にこのメニューを見いだして下さった某店フロント様に、「ごめんなさい。今日はもう売り切れてしまいまして…」と申し上げる事態が出現してしまった…。


現在、とにかく某店舗フロント様にご注文いただいたら必ずコブサラダを食べていただけるように、わたくしはひたすら毎日鶏肉をシーズニングスパイスに漬けて、オーブンで焼き続けている。
おかげさまで、だいぶんサラダを作る手が早くなって参りました。最終オーダー、なぜかコンフリクトする日はとことんコンフリクトして、お待たせする日も多くて申し訳ありません。今後も末永く、ご愛顧いただけますよう。


ところで、元在籍グループの男性スタッフさんからの最終お届け希望コブサラダも、じわじわと、じわじわと心の支えであったりする。
もしかしたら早上がり日の晩酌のアテになさってくださってますでしょうか。そういう「特別」になさってくださっていたら、いえ、そうでないとしても、嬉しくありがたいです。