This Is ItはMJへの愛に溢れていた

「こんなにまで、観て来た人全員がひとっことも悪い事言わない映画もないよな」と、観に行こうかどうしようか考えてい時にふと思った。
皆さんもきっとそう思うだろうが、信者が愚痴の1つもこぼさない宗教というのは胡散臭いものである。まして、マイケル・ジャクソン
そう、自分が特に若い頃見て来たマイケル・ジャクソンのファンは、とことん彼をくささない。そのあたりが、興味はあるがどうも距離を置いて聴いてしまうゆえんだったのだと思う。


以前のエントリーで、自分が彼の人生について同情的である事は書いたが、これはもう今後、ずっとそういう見方であると思う。
彼が死の直前幸福だったか不幸だったか、多分それが彼の人生のトータル勘定という事になるのだろうが、それはマイケル本人にしか分からない事だろう。
幸か不幸かはさておいて、彼はついに実現しなかったコンサートツアーを前に、すったもんだしている契約の問題云々に煩わされつつも、「やるからにはものすごいものを」という意気込みと希望があっただろう。そして、不安でもあっただろう。


コントロール・フリークは不安の病だ。そしてフィルムは、割と容赦なくマイケルのコントロール・フリークぶりを見せる。
しかし、マイケルはあくまでお行儀よく、忍耐強く、しっかり自己抑制を利かせて毅然と駄目出しをする。バンドが思い通りにならなかったからと、無言で癇癪起こしてギターを床に投げつけてスタジオから出て行ったエピソードをお持ちのどっかの殿下とはえらい違いである。
「怒ってるんじゃない。愛だよ」ってなぁ。
本当に、それじゃ長生きできるはずがなかったよMJ。現場の全員が認めている。誰よりもどうするのがいいか分かっているのが彼だと。


コンサートツアーのために選ばれたダンサー、シンガー、バンドのメンバー、裏方さんに至るまで、もうスタッフ全員が彼の事が好きでしょうがなくて、特に若いステージの上の連中は、もう神様とでも共演するかのようなキラキラさ加減。
あとで、一緒に観に行った息子が「彼ら、ステージに参加できる。ただし金払えって言われても同じようにキラキラしてたんだろうねぇ」と言っていたが、そういう、現実的な事はとりあえずどうでもよくなるような誉れの場にいる顔だった。
そういう人々の顔を見ていたら、涙が出て来た。
彼らの幸福は、確かにあのリハーサルステージの上にその時、あったのだ。


"Number Ones"リリース当時のマイケルは、間違いなく衰えていたと思う。声もダンスも何もかもが。
だから、さんざんテレビがチラ見せした"This Is Itの"断片を観て、我が家一番の彼のファンである息子と「…ここまで、戻して来てたのか」と驚愕して顔を見合わせ、そして愕然としたりしていた。
フィルム全編を観てからは、愕然もなんもなくて、つくづくと、つくづくと悲しい。


それでも、その夢は、そこにあった。それは間違いない。
何よりもそのことを、幾つもの記録フィルムを繋ぎあわせてこの映画を作った人々は分かっているし、観る人間にも分かって欲しかったのだろう。
オレも、この映画の事はひとっつも悪く言えない。

Michael Jackson's This Is It - The Music That Inspired the Movie

Michael Jackson's This Is It - The Music That Inspired the Movie