昔に比べれば経費のかからない仕事になった

ほんのちょっと前までは、ソープ嬢の私物カゴの中にはウイスキーやブランデーのボトルだの、お客へのプレゼントがてら着替えさせる下着や靴下だの、やはりプレゼントのための男物ハンカチだの、おびただしい数の煙草だのが入っていたもんである。
その他に、イソジンのうがい薬だのクリアレックスやイソジンウォッシュみたいな殺菌性のある洗浄料、入浴剤、ボディソープ、コンドーム各サイズに潤滑ゼリーなどは今でもおのおのの女子が自分の好みで揃えているわけだが。


オレは割合クラシックにソープ嬢をやっているので、今でも煙草はせめて15種類程度は揃えているし、肌も強い方ではないのでローションもグリセリン配合のものを他の女子と共同でポリタンク買いしていて、アロエシオのような謎の洗浄料やらマッサージ用のアロマオイルやらも取り揃えているが、さすがにもはや客に新品の下着や靴下やハンカチは提供していない。酒のボトルも入れてない。(入れていたら、自分も飲んでしまう…)


で、女子の衣装もすっかりカジュアルになった。
前から風俗情報誌のグラビアを飾る女子は、企画として私服あるいは私服っぽい衣装で写真を撮られる事はあったが、この頃はコスプレと平行するもう1つの流れとして、店の顔見せ写真を私服で(あくまで「男性ウケを外さないラインの」だが)撮影する女子も増えている。
が、やはりオレはここもいまだにクラシックにソープ嬢をやっているので、店で着るのは日常服とはかけはなれた、まさにオレの場合は「衣装」たるスーツやらドレスやら、夏だと浴衣だったりするのである。


しかし、先日フリーでついた客(バカ。もしうちの店の他の女子が本当にタダで君と店の外で会ってラブホでコスプレプレイにつきあってくれているとしても、オレは相当な割増料金を払ってもらったって、休日にんなことにつきあう元気も義務もない。つきあってくれた女子がいるならその子を大事にしろ恩知らず)のリクエストで「三十路セーラー服」をやる羽目になったりしたが、メイドコスチュームも含めた「制服系」衣装、どうやらいつの時代でもそこそこニーズがあるようで。
白シャツに紺スカートでストッキングにヒール、くらいの「もうそんなOLいねぇよ」というOLコスチュームなんかも人気があるらしい。


年齢も年齢であるし、オレは店での衣装にはある程度の金を出している。
そしてある程度の数を揃えている。というか、ここ数年などは「店での衣装」が私的場面における衣類よりも多いかもしれない…。いや、多い。
営業ってやつで努力ができないオレは、こういうところで頑張るより他に無いし。
ある程度の金といっても、ドレスやアンサンブルスーツ、ワンピースアンサンブルでだいたい1着2〜3万程度だけど。これがもはや業界では高い部類で。


吉原の場合、多くの店に行商ブティックさんが出入りしていて私服やら店衣装やらを売っているのだが、行商ブティックさんもかつては1着5万円のスーツやドレスを当たり前に売っていたものである。
それが、この頃の主流はだいたい1万円台のドレスで、スーツはもはや絶滅危惧種の衣装である。
着映えしないしすぐにみすぼらしくなるのだが、5千円を切るドレスももはや珍しくない。
最近ソープ嬢がぺらぺらのドレスばっかり着てるなぁと思っている貴兄、それはボク等の懐具合が年々悪くなっているせいですね。


ドレスが増えたのはキャバ方面からの影響もあるんだろうけど。
昔なら銀座のお姉さんが売り掛け抱えてしまってソープに短期で稼ぎに来るっていうパターンもあったけど、今は売り掛け抱えてなくてもなんとなくキャバクラからソープに流れて来る女子もそれなりにいる。


先日オレが購入した新しい衣装は、やはりドレスであったりする。
胸元ラインストーンきらきらの、紫というよりダークプラムのスレンダーラインなロングドレス。…あれ着るなら、ホントこれ以上は太れない。ストレッチ生地だけど。
「…ああ、夏は間に合わせでどうにかしたけど、いい加減まともなパンプスかミュールも買わなければ」と思案もしたり。


しかし、オレにリピートで入ってくれるお客は、色も形もあれこれなものを着るオレを面白がってくれてる人達が多いのでオレもあれこれやっているわけだが。
ことフリー客と接するに、確かに安くない金払った衣装で接するに値しないと思ってしまう客は増えてる、よな。
コスプレ用の制服なんてのはまさに安い衣装の最たるものな価格なんだけど、あれは女子からのサービスというよりも「こんなもん着ておけば勝手に喜んでるだろうこいつら」と馬鹿にされているのだよな、客達が。で、また、実際喜んじゃうんだよな。


オレには幸い、気難しい自分に見合った偏屈なリピーターがつくようで、彼らに「あたしがコスプレやったらどうします?」と訊くと「馬鹿にされてるような気になる」と何人かから回答いただいたりもしていて、救われてるよなぁオレ、と、ほっとしたりするのであった。