やはり、バラードは不幸な身の上にあった

およそ、大きいホテルのロビーで、朝食時間のあるいはティータイムのレストランでB.G.M.として流されるようなアレンジを施されるのは、それが如何にメガヒットしたゆえであっても、楽曲に取っては最大の不幸であるといつもオレは思う。
いいじゃんああいう場はクラシックでも流しておけばさー。いわゆるイージーリスニングだってあるじゃん。それらこそがああいう場で流すべきもんでしょう。
なんでわざわざポップスやロック名曲を皆さんアレンジしたがるの。


暇人の調査の結果、ノリがあまりに良すぎる曲や渋過ぎる玄人受けロックは、あまりにもあまりなアレンジを加えられないようでほっとしたのだが。
(前述"Gimme Some Lovin'"もまだ幸いな状態だったけど。同じくWinwoodがいたTrafficの"Feelin Alright"あたりは、さすがに作った人であるDave Masonがソロでやってるのはよりファンキー色が強くてよろしかったし、Joe Cockerのも予想通り。多分こういう感じのものは「演る人を選ぶ」曲なんだろうな。)

Traffic

Traffic

"Feelin Alright"はこちらに収録。


しかし、玄人受けロックでもまったく油断ができないのは、Blind Faithの"Can't Find My Way Home"のあたりから、恐怖「毒抜き陳腐化カヴァー」が始まってしまっているという現実。やはり、やはり「美しい曲」は危険が。
あれか。勝林よりも歌が下手な(ギタリストにそれ求めちゃ駄目だが)あの有名なレイドバック親父のせいもあるのか。彼も何度となくライヴでこの曲を取り上げているせいか。
こういう有様に遭遇するとつい「…皆が知ってるメジャーになんてならなくていい。知る人ぞ知る名曲のままでいてくれた方がなんぼか、ああなんぼか」と床のフローリングに爪を立てたくなるなぁ…。


本来、「皆が知ってる名曲」になることは、その楽曲にとって幸福な事のはずなんだが。売れれば売れるほど、皆様に受け入れられやすい曲ほど、あちこちでべたべた手垢をつけられてしまう運命が待ち構えてるよなぁ。
で、AOR業界内でカヴァーされまくるのも不幸だが、最近はそれよりもっと大変な不幸があるのをやっと思い出した。
ボサノバアレンジを施される、だ。
これを経てストリングスアレンジ、オルゴールアレンジという「楽曲陳腐化コンベア」に乗ってしまうのだと見た。ボサノバアレンジが「楽曲消費され尽くしへの道」が本格化する第一歩だ。
例を挙げるなら、Minnie Ripertonの"Lovin' You"なんか、この「陳腐化コンベア」の上に乗せられて徹底的にやられた楽曲の典型的なひとつだな。
本家よりカヴァーとアレンジばかりを街のあちこちで聴く状態、と。


なんでボサノバが分水嶺って、ポップスやロック名曲をアレンジしたボサノバは王道ではないとこだろうけど、その王道ではないとこですら世間的イメージは「よく分からないけどそれってオシャレな音楽ジャンルなんでしょう?」的曖昧さがあるから、なのかねぇ。その曖昧さが次のステップへの踏み台になるに違いない。
あ。別にオレだって"Desafinado"が普通にボサノバで流れてたら、どうとも思わない。


このあいだも、それがどの曲かはよっぽど記憶から消したかったらしくて忘れてしまったんだけど、美容室に行くとやたら安いボサノバアレンジにされたオレの好きな曲が流れて来て、「あぁぁぁ…」になったんだった。
それは、"Chuck E.'s In Love"だったような。あんまり思い出したくないからはっきりしないままにしておこう。
"Nothing Compares 2 U"も流れていたような気がしなくもなくもないが、もうこれ以上は記憶をたぐらないぞ、うん。