すっぱいぶどう

母が、彼女にとっての姑、オレにとっての父方祖母について「あの人は、『すっぱいぶどう』の人だったわよねぇ」と以前さらりと言ってのけて、オレは姑というものに対する嫁の辛辣さに戦慄したと同時に、大いに膝を打ったものであった。
イソップ童話だな。
およそ、オレの父方祖母に対する講評でこれ以上的確なものは、聞いた事がない。


そういう人に幼少時にたっぷりつきあわされたものだから、オレは今もって「あのぶどうはすっぱかったんだ」とキツネが言ってるのを聞くのには、うんざりしてしまう。
何を好きこのんで自ら物笑いの種になるような事を言っておるのだと、キツネの負け惜しみをあまりに聞かされたがためにもはやそれを笑うのも困難なオレは、ただひたすらうんざりするのであった。
このうんざり感のやるせなさは、人様にはなかなか理解してもらえまい。


そう、オレは笑えなくて、うんざりしちゃうだけなんだよ。
なんせオレ自身がぶどうだったもんでさ。
いやー、うん。すっぱいよすっぱい。はいはい、すっぱいすっぱい。
だから、はなからぶどう棚のぶどうをどうにかしようと思わない方が良かったんだって。