吉原角海老・三浦屋摘発その周辺についてのメモ

吉原角海老・三浦屋の摘発は、吉原に勤務する人間としてはそりゃ当然、びっくりした。


このニュースに関するはてなブクマのコメントを見ると「五輪誘致のための浄化作戦開始?」という推測が幾つか上がっているが、まぁ、基本的には間違いなくそのへんの流れの中での摘発なんであろうよ。


ブコメ中の割引券出さなかったのがいけないんじゃないか的コメントはまぁ笑止っちゅうか論外として。みかじめ料けちったんじゃないのというのは、うーん…。
吉原ソープランドの地域企業としてのご当局への貢献は、浅草防犯健全協力会*1名義でまとめてやってる事だからねぇ…。
バイオレンス小説の中にあるような、個人的に金品要求して、そのみかえりに「違法」営業を見逃してくれるような警察官は、幾ら警察という組織がかなりアレでナニだとしても、吉原なんていう目立ってしょうがないとこを管轄していたら、まずいられなかろう。
あと、吉原のお店が怖がってるのは、警察じゃなくて圧倒的に保健所なんだよねぇ。そこんとこ世間は誤解してるけど、ソープランドにとっては、警察より保健所の方がずっとずっと怖いのですよ。直接ソープランドこと個室付き特殊浴場の営業権をうんぬんできるのは、結局んとこ保健所さんだから。


吉原の内部情報としては。今回の検挙の直接のきっかけは、角海老あるいは三浦屋の早番女子が、遅刻せずに店の開店時間にいられるよう、店泊(「てんぱく」と読む。閉めたあとの店に従業員が泊まる事をこう呼ぶ)していたことだった、という話が流れている。裏口からの出入りでも、私服警官にみとがめられちゃったか。
で、男子従業員はともかく、女子従業員の店泊は御法度なんだよね。これが見つかっちゃうと、だいたいの場合「管理売春」で店は摘発される。
よって、吉原の多くの店は近年、女子の店泊をかたく御法度としている。風呂も、ベッドもといシングルベッド並みのマッサージ台もあるわけだから、泊まるには好都合なんだけど、いかんのです。


んで。
今回の摘発のニュースでは「管理売春」という言葉は登場せず、「売春場所の提供」といった容疑でとどまっていたあたりが、オレの再度のびっくりポイントだったりしている。摘発前に角海老の経営サイドと警察の間で何かの手打ちがあったのかも知れないし、ご当局、いよいよやり方を変えて来たのかもしれない。


もっとも、吉原ソープランド街へのご当局の締め付けは、最近いきなり厳しくなった訳じゃあないのだよね。
話は平成18年春に遡る。一番最近の改正風営法施行時。


それまでは、吉原のソープランド街各店舗では、深夜というか午前零時までにお客が店の玄関をくぐれば、営業時間内滑り込みセーフだった。
かつては午前零時過ぎ、ラスト番の女子達が個室やら控え室のお片づけなどして、フロントからの「おつかれさまでした」コールを固唾を呑んで待っていると、15分も過ぎた頃になって、そのうちの1人だったり複数名だったりに「お客様です。スタンバイお願いします」コールがかかる、いわゆる「ドはまり」でのお仕事は珍しくもなかった。
ボーナス時期ともなれば、いよいよ零時回ってからがもう一稼ぎの時間帯ってなもんで。
オレがラスト番で仕事をしていた頃は、「ちょっとはまっちゃったけど、0:25上がりだから、これでラストのお客だな」なんて思いつつお帰りのお客とともに部屋から降りると、接客チケットを受け取ったフロントから有無を言わせぬタイミングで「はいお客様続きます」と言われ、頭の中でお鈴どころか梵鐘が鳴り響くという事態は、よくあることだった。
はまりは悲しいものだが、そのはまり仕事による収入は馬鹿にできないものがあり、そこんところがかつてのラスト番勤務女子の旨味であった。


いにしえの、遊郭時代の吉原にも、引け四ツだか引け八ツだっていう「建前のものとは違う大門の閉鎖時間」があったそうだけど。
まさにそのまんま、「引け零時」だった。この深夜営業、実際のところは改正前から風営法には違反するものだったけど、午前零時を回ってから玄関から堂々とお客を入店させたり帰したりする現場さえおさえられなければ、半ば公然と見逃されていたのだ。

ところが。平成18年春からは、状況が一変した。
今の吉原に、午後11時過ぎにお越しいただければ分かる。まだ店の看板を点けているいる店もちらほらとはあるけど。仲之町通りに江戸一通りに江戸二通り、角町通りに揚屋通り、まぁ、暗いよ。怖いくらい。
多くの店はだいたい夜の11時を回ったあたりで、シャッター閉めて看板の灯りを落としてしまうのがここ数年。
やたら制服のおまわりさんが巡回しているようになっただけじゃなく、営業時間内も営業時間外も、私服警官がそれなりの頻度で出歩いてるんだそうで。
客引きに対する規制も厳しくなって、立ち番のボーイさんが玄関の中から、うっかりそれと知らずに私服警官に「こんにちは」と声を掛けただけで客引き行為と見なされて、お店がご当局から厳重注意を受けました、なんていうのも平成18年春以降の話。


さて、今回の老舗角海老グループの摘発に話を戻すと、きっかけは、前述の女子従業員の店泊行為であったんだろう。
老舗の角海老さんがそれをやっちゃったのがよろしくなかったのかも知れず。
最近の吉原角海老グループの業績はあまり芳しくないとの噂もあるが、それでも吉原のビッグネームが案内所ごと摘発されたというのは、吉原の街全体に与えたインパクト大きいよなと感じている。
勿論、多分にスケープゴートだよね。


同時にやったと報道されている情報喫茶への手入れも、角海老グループさんみたいな直営案内所じゃないにしたって、特定の店と懇意にして積極的にお客を送り込んで他の店よりも高額のバックをもらってる情報喫茶なんかはかなりあるわけで。
そういうセミ直営案内所みたいなところを持っている店への警告もあるのかも知れないし、吉原の街からちょっとはみだして、しかも風俗営業は無届けで紹介行為をしていた情報喫茶そのものを、一網打尽にしたいっていうのがそもそもの狙いでありましょう。
だけどさ、そんなことするまでもなく、もうとっくに斜陽産業の気配満々だったけどねぇ、情報喫茶。いつ通りがかっても、マスターが玄関前で立ち尽くしているばかりで店内ノーゲストなんつう店ばっかりですぜ。吉原本体が元気ないんだから、そこにお客を紹介する情報喫茶だって賑わってるはずがない。


くだんの風営法改正直前から、急に各情報喫茶の店先から「情報」の文字が消されて「?」と思っていたけれど、紹介所としては無届けで営業していたのは、吉原の中にいても知らずにいたので、そこんとこは「ああ」と納得はできたんだけどね。今回の件。
しかし、スケープゴート作って「よりつつましく営業せい。こっちの面子を潰すような派手な事はやるな」っていうご当局の示威行為みたいな今回の事件は、インビジブル売女、やっぱり合点はしかねますわいな。
これもあくまで吉原内の噂ではありんすが、現都知事さん、段階的にとりあえずは吉原のソープランドの店舗数を、現在の2/3程度まで減らすご意向らしい、なんつう話も聞こえて来ておりますなぁ。今後、店にちょっと隙があったら、がんがん摘発されちゃう流れになっちゃうんじゃなかろうか。


ガサ入った当日、どうもテレビカメラらしきものを担いだ人物が角海老さんに入って行ったという目撃情報を聞いているので、もしかするとそう遠くないうちに、テレビの番組改編期恒例の警察タイコモチスペシャル番組にて、摘発の様子なんぞを放映するのかも知れませんなぁ。
見たくもないけど、もし見ちゃったら、心の中であるいはもう大声で、歌いますわよビブラストーンの「パブリック・エネミー」を。


そんなのインチキじゃーん!

*1:別名・浅草特殊浴場防犯健全組合。微妙に違うけど、この2つの団体はほぼ同一